日本民謡ガイドブック

民謡ガイド㉝ 本荘追分 ~解説、歌詞、意味~

民謡は難しくないし、古臭くない!日本に伝わる民謡を一曲ずつ解説していきます。第㉝弾は、秋田県民謡「本荘追分」。実は僕の思い出の曲なんですぅ~♪

児玉宝謹の寸評

僕の思い出の曲・・・(遠い目)w 寸評からは少し外れますが、まぁちょっと聞いて下さいな!
僕は、親の代から神戸生まれの神戸育ち。主だった日本民謡の舞台になっているような、牧歌的な田舎とは全く縁遠い人生でした。で、1995年、例の阪神淡路大震災で被災し、知人を頼って兵庫県の西端、播州赤穂に3年間転居しました(忠臣蔵のふるさとですね)。で、引っ越し作業も少し落ち着いた頃、一級河川である千種川沿いの道路を、車でゆったりと走っていた時のことです。
車窓から見える風景は~ 緩やかに蛇行している川。その両側に道路。その両側は一面の田んぼ。更にその両側には民家が点在し、そこから山の端が空に上り始め、それはやがて幾重にも重なって遠くまで続き、もっと先に青い空と白い雲・・・そんなシチュエーションで車内に流れていた音楽が、たまたまこの本荘追分だったのですが、
風景と音楽とのあまりのドンピシャぶりに、もぉダバ~ッと、涙腺崩壊w 「これが民謡の心や~」っと!
つまり僕は、’90年に先代を亡くし22歳で二代目となったものの、上記の生い立ちから、本当に民謡が生まれ育った環境は全く知らないまま、テクニックだけで、もっと言えば上辺だけで、教えていたわけですね(仕方ないんですけどね)。むしろ当時のお生徒さんこそ、地方ご出身の方が殆どだったので、そんな僕の民謡をどのようにご覧になられてたでしょうね? 今でも思い返す度、恥ずかしくなりますぅ。
この時に味わったのは風景だけですが、風景といえばご存知のように神戸なんて、昼も夜も、山からも海からも、異国情緒溢れるエキゾチックな街並みでござんしょ! そこで似合う音楽はやっぱり、ジャズとかフュージョンとかラテンとかボサノバとか、とにかく洋楽ですよ。でも赤穂のその風景にピッタリ合うのは、絶対に洋楽ではない、といって邦楽でも長唄とか浄瑠璃とか演歌とか、果ては御詠歌でも声明でもない、絶対に絶対に「日本民謡」だったんですよ!
震災は不幸だったけど、已む無く流れ着いた赤穂の地で、僕の心に「日本民謡の指導家たる」必要な何かを、植え付けてくれたのが、この本荘追分なんです!(長文すみません)

ってコトで、それから20年余を経た今日、でも未だに秋田県の皆様には遠く及びもつきませんが、演奏する度、聴く度に、上記のあの時を思い出して、初心としているつもりなんです。

歌詞を読んでみよう

(キタサー キタサ)
「ハー」本荘(キタサ)
「ハー」名物(ハイハイ)
「ハー」焼け山の(ハイハイ)
「ハー」わらび「ヨ」 (キタサー キタサ)
焼けば焼くほど(ハイハイ)
「ハー」太くなる(キタサー キタサ)

(   )「  」出羽の(   )「  」富士見て(   )
「   」流るる(   )「  」筏「  」(    )
着けば本荘で(    )「  」上がり酒(    )

(   )「   」あちら(   )「  」こちらに(   )
「   」野火つく(   )「  」頃は「  」(    )
梅も桜も(    )「  」共に咲く(    )

(   )「   」江戸で(   )「  」関とる(   )
「   」本荘の(   )「   」米は「  」(    )
おらが在所の(    )「   」田で育つ(    )

詳しい解説

秋田県民謡。本荘地区のお座敷唄。
「追分節」の起源が「信濃」というのは常識になっている。浅間山麓を馬の鈴を響かせながら唄った馬子唄が地方に伝搬した経路は、主に二つある。一つは北上して新潟から海路松前に行き、そこから逆に南下して船川、秋田、本荘、酒田へと伝わった経路。もう一つは、瞽女や旅芸人、傀儡師たちによって越後から陸路を北上し、酒田、本荘へと伝わった経路である。本荘追分は後者と見ていいだろう。
この唄を、通常の「追分」という先入観で聴くとそぐわない印象を受ける。しかし前述のように、伝搬の経路によって途中様変わりしていくのは当然と言える。原型の小諸馬子唄、信濃追分などの哀調や悠長さは消え去り、急テンポで明るくリズミカルな曲調になっている。

演奏のポイント

この曲の一番の特徴は、個人的には「変則付点」と呼ぶ、独特の弾み方のリズムです。近年のコンクールでは、これを忠実に演奏できる伴奏者が少ないせいか、ノーマルな弾み方でもOKなようで、ちょっと残念です。かくいう僕も、~当初は正直てこずりました。でも例えばクラシック音楽で、そのパッセージが難しいからとて変更OKなんて~、しないよね~。同じ秋田県民謡で「秋田荷方節」がありますが、あの撥捌きこそ高難度!だからと言って「音ひとつオミットOK」なんて~、これも誰もしないよね~。神戸の僕でも出来たんですから、皆さまも出来ますよ~。
で、
この曲の編成は、津軽三味線、尺八、〆太鼓に、唄とお囃子のクインテットです。リズムは難しいですが、お唄は普通レベルです(といっても秋田民謡ですから易しくはないですよ)。あと、秋田民謡でよく出てくるお囃子の「キタサ」ですが、秋田弁で「キ」は「チ」が混ざった感じで、しかもほぼ聞き取れない小さな舌音であるのが特徴です。僕などは幼い頃、他の民謡でこの発音を聴いた時「キタ~サ」ではなく「タ~サ」だと思ったものでした(笑)
とまれ、他所の方はその辺りも、良い味が出せればいいですね。。。

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