民謡は難しくないし、古臭くない!日本に伝わる民謡を一曲ずつ解説していきます。第1弾は富山県の民謡・こきりこ節。
こきりこ節は、「越の下草」や「奇談北国順杖記」などの1800年前後の文献にもその名前を見ることができます。しかし民謡の成立自体は、もっともっと古く、飛鳥時代にはその原型ができていた…という説もあるくらい。解説に「平家衆」という言葉も出てくる通り、民謡の中でもかなり古い民謡とされています。
祭礼で五穀豊穣を祈るために唄われる、素朴な民謡ですが、昭和以降忘れ去られる危機に直面しました。しかし現在では、保存会などの活動によって保存と育成が行われています。
児玉宝謹の寸評
平家にもいろんな流派があるわけでして、清盛一家はドーンと出世しましたが、それ以外はこちらのように、一つ違えば左遷される一家もありました。因みに、地方で有名なのが北条家ですが…
で、在りし日に思いを馳せるセンチメンタルな曲想ではあれ、そこはやはり元官僚一家(笑)日本民謡でも嫁姑は古今東西、諍いのタネを唄うものが多いなかで、こちらは姑が嫁を労るという風景~。
そりゃ左遷先で諍ってたら生きていけんけどね(笑)
メロディは簡単で明るく、この地方の民謡の傾向としては異質でユニークであり、多くの人に愛唱されています。昭和中期には文部省中学音楽教科書にも掲載されていたということです。
歌詞を読んでみよう!
筑子の竹は 七寸五分じゃ 長いは袖の かなかいじゃ
*窓のサンサもデデレコデン 晴れのサンサもデデレコデン
向かいの山を 担ごとすれば 荷縄が切れて 担がれぬ *
向かいの山に 鳴くヒヨドリは 鳴いては下がり 鳴いては上がり
朝草刈りの 目○をば覚ます 朝草刈りの 目を覚ます *
踊りたか踊れ 泣く子をいこせ ササラは窓の 元にある *
月見て唄う 放下の筑子 竹の夜声の 澄み渡る *
娘十七、八ゃ 大唐の藁じゃ 打たねど腰が しなやかな *
思いと恋と 笹船に乗せりゃ 思いは沈む 恋は浮く *
いろはの文字に 心がとけて この身をせこに 任せつれ *
詳しい解説
地方:富山県五箇山地方平村上梨(ごかやまちほう-たいらむら-かみなし)の民謡。歌詞は、現地では14節挙げられており、囃子は各節2句の後に唄われる。但し第3節のみ4句の後に唄われる。
この唄は「二十四輩巡拝図絵(にじゅうよはい-じゅんぱいずえ)」や「越の下草(こしのしたくさ)」などの文献に明記されている点で、来歴由緒が極めてはっきりしている。伴奏は笛、太鼓の他、鍬金(くわがね)と筑子(こきりこ)である。こきりことは歌詞にある通り、約23.3センチの乾燥した細竹で、これを打ってミハルスかカスタネットのような音を発して拍子を取る。この竹がこれ以上長いと、狩衣などの長い袖にひっかかって、かなかい(邪魔)だと唄う。
平家衆が都での優雅な生活を思い起こし、烏帽子や狩衣の衣裳をつけて、ビンササラという堅い木片を綴じた楽器や筑子を打ち鳴らし、唄ったり踊ったりして時を忘れていた様が伺える。隣村の利賀村(りかむら)の「こっきりこ」の歌詞、“こっきりこの竹は7寸3分 長いは袖の邪魔になる”と比較対照すると面白い。
第3節のヒヨドリは、日陰で鳴く習性があり、太陽の移動で山の陰影が変化するので、鳴き声の場所位置によって時刻が知れる。朝、露の乾かぬうちに牧草を刈れと促しているという、科学と直感がマッチした歌詞である。
第4節の“泣く子をいこせ(またはいくせ)”は、「泣いている赤ん坊は私によこして、踊り場に出掛けなさい」と、若い嫁をいたわる姑の言葉である。
演奏の難易度とポイント
構成:三味線。唄。篠笛。ササラ。鍬金。こきりこ。舞踊。
難易度:1/5
日本民謡中ほぼ間違いなく、最もシンプルな構成といっていいと思います。お唄にしても楽器にしても、初心者の練習曲にはうってつけ!
てことは逆に言えば、コンクール等には向かない?っと思いきや、その昔、この曲を唄ってテレビ放映にまで進んだ方がおられました。素朴さを如何に表現するか?それは地元の老練なお方の真骨頂か。