民謡は難しくないし、古臭くない!日本に伝わる民謡を一曲ずつ解説していきます。第25弾は秋田県民謡、「秋田馬方節」。
秋田県には数多の民謡がありますが、どれもお国柄をイメージさせてくれます。今回はその中でも唄い手の度量と、馬子鈴の音色が聞き手の心をとらえて離さない「秋田馬方節」をご紹介します。
児玉宝謹の寸評
今回から地域名を冠した民謡特集を始めます。
数の上では琉球がダントツ!エリアの広さ(奄美。本島。八重山。)と、新民謡がドンドン生まれているからというのがその理由です。続いて北海道の「北海~~」も物凄い数!こちらは明治以降、内地からの入植者が津軽民謡に対抗して急拵えで作ったから!
でも僕が今回から始めるのは先ず、秋田県民謡です。メジャーなもので約70曲(これでもなかなかですよ)。うち25曲ほどが「秋田~~」という曲名になります。
秋田県民謡の特徴は、なんといっても楽曲の完成度!どの民謡も本っ当~によく練られていて、他県よりもはるかにずば抜けた文化水準の高さが伺えます。これは米どころであった故の「豊かさ」が根本。津軽や南部のように、貧しさの反骨心から叩き上げたものも素晴らしいですが、秋田のそれはもう、有無を言わせない程の上質なセンスと、手の込み様です。
秋田県特集10曲中1曲目は、竹物の「秋田馬方節」。そのスジでは、冒頭の歌詞から「あべや」の通称で親しまれている曲です。あべやとは「さぁ行くぞ」という秋田弁です。
歌詞を読んでみよう
(ハーイハイ)
「ハー」あべや(ハイ) 「ハー」この馬 急げやからげ(ハーイハイ)
「ハー」西の(ハイ) 「ハー」お山に 「アリャ」日が暮れる(ハーイハイ)
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( )「 」一人( ) 「 」寂しや 馬喰の夜道( )
「 」あとに( ) 「 」轡の 「 」音ばかり( )
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( )「 」辛い( ) 「 」ものだよ 馬喰の夜道( )
「 」七日( ) 「 」七夜の 「 」長手綱( )
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( )「 」今宵( ) 「 」一夜で 峠を越せど( )
「 」さぞや( ) 「 」妻子は 「 」待ちかねる( )
詳しい解説
秋田県の労作唄。
県下の馬喰たちが、馬市への往来に数十頭もの馬を、それも夜中に連れて移動する折に唄ってきたのが、この秋田馬方節である。その源流は、旧南部領の馬喰たちが唄ってきた「夜曳き唄」という名の馬方節で、やはり当時から馬市の往来に夜間馬を連れて移動しながら唄ってきたものである。それが馬市を通じて東北一円に広まっていき、やがて秋田県下にも持ち込まれた。
今日広く唄われている節回しは、夫が馬喰だった関係で唄を覚える機会が多かった加納初代(由利郡金浦町)が、昭和8~9年頃にレコード化したものである。レコーディング当時は単に「馬方節」であった。
この唄は、夜間に馬を曳いて移動する馬喰たちの唄だけに、孤独からくる寂しさと、馬へのいたわり、加えて後に「追分節」になる唄ということで、美声が十分に発揮できるという魅力があるようだ。
演奏のポイント
竹物(尺八唄)なので、尺八、囃子、そして唄い手の三人になりますが、特筆すべきはお囃子さん。馬子鈴を鳴らしながら囃子をかけます。馬は歩くと頭を上下に振るのですが、轡に鈴が付いていて、その度に鈴が鳴っていたのを、音楽的に表現しているんですね。これはこの曲だけではなく、「追分。馬子唄。馬方節」といった、馬に関する民謡の殆どに、この馬子鈴の伴奏はあります。
唄い手はもちろん、尺八も上手に越したことはないですが、この馬子鈴の情緒の出し方と囃子の掛け方で、コンクールでは明暗が分かれるほど、責任重大な脇役なんですよぉ~!
あと、4節で構成されてますが、分析すると実は2種類の節回しを2回唄って4節というチョーシンプルなもの。一度聴いただけでは、全くそうは感じない表現力豊かな唄で、舞台栄えもするので、演者にとってはおトク感満載な民謡ですね(笑)